
昔よく一緒にお茶をした人がいて、
そのうち私が忙しくなって相手できなくなったあとも、
医局の冷蔵庫にはヨーグルトが一つだけ残っていた。
その人はいつも売店でヨーグルトを二つ買って、
私とのお茶のために用意してくれていたので。
私が忙しくてお茶に来なくなった後も、私の分もヨーグルトを買ってくれていたのだろう。
こういう感傷は男性特有のもので、女性というのはその場悲しくても立ち直りも早い。
そのくらいのことは私にも解っている。しかし、だからこそ、男性は持って行き場の無くなった記憶とともに取り残される。あの「忙しさ」は何だった?ああ、いろいろ、感謝もされただろうさ。だけど、今の私は、あのときの一杯の紅茶となら何を引き換えにしてもいい。
私がクリニックを作ることにしたとき、私にはイメージが何もなかった。
ただ、あのときの彼女とゆっくりお茶が飲めるような空間にしたいと思った。
白く、エレガントにまとめて、風に揺れるカーテンの陰から、あのときの彼女が透明な妖精のように現れては消える、そんなクリニック。
楽しかった思い出というのは、記憶に残りにくい。
花を見ていると、たぶん、この花の数くらいは、自分では忘れてしまった楽しいことがあるんだろうな。
そんなことも思う。

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